【ABR 2024-No. 8】永遠に続く親子関係?「永続平衡」の不思議
医学物理士の知識を「読み物」として楽しむシリーズ。
2024年度の第8問目は、放射性壊変における親子関係(放射平衡)についてです。ラジウム (Ra-226) とラドン (Rn-222) の関係を例に、その絶妙なバランスを紐解いてみましょう。
今日の英文クイズ (The Question)
Question:
Which of the following best describes the parent-daughter relationship between Ra-226 -> Rn-222?
A. temporal equilibrium
B. secular equilibrium
C. transient equilibrium
D. positive equilibrium
E. no equilibrium
日本語訳とキーワード
「Ra-226(ラジウム)から Rn-222(ラドン)への壊変における親子関係を最も適切に表すのはどれ?」
- parent-daughter relationship: 親子関係。親核種が壊変して娘核種になる関係。
- secular equilibrium: 永続平衡(えいぞくへいこう)。
- transient equilibrium: 放射平衡(過渡平衡)。
- half-life (T1/2): 半減期。
答えと解説 (Answer & Explanation)
正解は B. secular equilibrium(永続平衡) です。
放射平衡にはいくつかの種類がありますが、今回のポイントは「親と娘の半減期の差」にあります。
- 親核種 (Ra-226) の半減期: 約1620年
- 娘核種 (Rn-222) の半減期: 約3.8日
このように、親の半減期が娘の半減期に比べて圧倒的に長い場合(およそ1万倍以上の差がある場合)、娘核種の放射能は最終的に親核種の放射能と等しくなり、そのまま長期間一定に保たれます。この状態を「永続平衡」と呼びます。
もし親の半減期がそこまで長くなく、娘より少し長い程度であれば「過渡平衡(transient equilibrium)」と呼ばれますが、ラジウムとラドンの場合は「圧倒的な年の差」があるため、永続平衡が正解となります。
ひとこと(大氷河とせせらぎの例え)
1620年と3.8日。
例えるなら、何千年も姿を変えない巨大な氷河から、ふもとの小さな川へ水が流れ込んでいるような状態です。
氷河自体は一生かけても溶けきらないほど巨大ですが、そこから溶け出す水が絶え間なく供給されるため、川の水位はいつもピタリと同じ高さに保たれています。氷河(Ra-226)という圧倒的なバックボーンがあるからこそ、短命なせせらぎ(Rn-222)が絶えることなく輝き続けられる……ミクロの世界にも、そんな雄大なバランスが存在しているのですね
