「新NISAさえ始めれば、誰でも等しく豊かになれる」 2024年の制度拡充以来、日本中がそんな楽観的な空気に包まれているように感じます。

しかし、私たちの25年先を歩んでいる「本家・英国ISA(個人貯蓄口座)」の歴史を紐解くと、そこには理想論だけでは片付けられない、冷徹なまでの現実が横たわっていました。

今回は、英国の膨大なデータから見えてきた「投資格差」の正体と、私たちがこれから直面する未来についてお話しします。


1. 制度は「最強」。でも投資しているのは「わずか1桁」

まず、英国のISAという制度がいかに優れているかを知ってください。 年間投資枠は約400万円(2万ポンド)。日本の新NISAにある「生涯投資限度額(1800万円)」という壁は存在しません。さらに、ISA内の資産は「そっくりそのまま非課税で配偶者に相続できる」という、究極の神制度です。

利用率も人口の約51%。「さすが金融先進国!」と思いますよね? しかし、データを深掘りすると衝撃の事実が浮かび上がります。

  • 利用率の罠: 利用者の多くは、株式投資ではなく「預金型(Cash ISA)」で非課税の利息を得ているだけ。
  • 投資の実態: 株式型を利用して実際にリスクを取って投資している英国人は、各年代でわずか6〜9%しかいない。

制度がどれほど充実し、25年という歳月が流れても、実際にリスクを取る人は依然として1桁パーセントの少数派なのです。「人間は本質的にリスクを嫌う」という性質は、国がどんな器を用意しても簡単には変わりません。

2. 「ISAミリオネア」たちの共通点

一方で、この制度を使い倒し、口座残高が100万ポンド(約2億円)を超えた「ISAミリオネア」たちが爆発的に増えています。その数は直近8年で10倍以上(約4,500人)になりました。

彼らは特別な天才だったのでしょうか? いいえ、彼らのポートフォリオには明確な共通点がありました。

  1. 圧倒的な低キャッシュ比率: 一般利用者の現金比率が8.2%なのに対し、ミリオネアは4.7%。資産の大部分を常に市場に晒しています。
  2. 市場に居座り続けた: 彼らの平均年齢は74歳。ITバブル崩壊やリーマンショックといった暴落を乗り越え、25年間ひたすら市場から退場しなかったのです。

「ミリオネアになるために必要なのは、優れた分析力ではない。暴落の荒波に揉まれても、決して市場から退場しない『生存能力』である」

これが、25年の歴史が出した答えです。

3. 残酷な現実:NISAは「格差拡大マシーン」になり得る

投資優遇制度は、一見平等のようでいて、その本質は「持てる者」と「持たざる者」の差を広げる装置でもあります。

例えば、新NISAで月5万円を30年間運用(年利4%)できたとします。これによって得られる節税効果は、国から毎月約9,300円の「給付金」をもらい続けているのと同じです。 しかし、日々の生活で精一杯の層には、この「非課税」という恩恵は1円も届きません。

英国でも、年収が低い層ほど「預金型」に留まる傾向があり、一部の富裕層だけが非課税でさらに富を膨らませています。NISAは、余裕のある人がさらに加速して豊かになる一方で、投資に回せない人々を相対的に貧困へと追いやる「格差拡大マシーン」としての側面も持っているのです。

4. 日本の未来への「一筋の光」

英国の事例は厳しい現実を突きつけていますが、日本には独自の希望があります。 それは、私たちが世界に誇る「貯蓄好き」という才能です。

英国ISA導入の背景には「国民に貯蓄がない」という危機感がありました。対して日本には、すでに1,100兆円もの現金預金が眠っています。現在はインフレによって価値が目減りしていますが、もしこの莫大な資金が「株式」へと移動すればどうなるでしょうか?

日本は、世界でも稀に見る「最強の個人投資家国家」になれるポテンシャルを秘めているのです。

結論:私たちはどう動くべきか

英国ISAの25年が教えるのは、「素晴らしい制度があっても、それを使いこなして恩恵を受けられるのは一部の人間だけ」という教訓です。

格差が広がる社会構造を嘆いても、あなたの資産は1円も増えません。 私たちが取るべき行動は、至極現実的なものです。

「まずは自分が、制度の恩恵を受ける側に回ること」

国家が助けてくれるのを待つのではなく、まずは自らが経済的に生き残り、余裕を確保する。 明日も市場に居続ける覚悟を持つこと。それが、新NISAという激流を乗りこなし、自分と大切な人を守るための唯一の「生存戦略」なのです。

ABOUT ME
コテツム
「物理の教科書、日本語なのに意味不明」と絶望した経験から、世界一わかりやすい放射線治療の解説を目指してブログを書いています。 天才肌ではないので、凡人がどうやって知識を定着させるか、その「泥臭い攻略法」をシェアします。
CTA